昨年末、親族の葬儀を四ツ木斎場(東京都葛飾区)で執り行った70代の男性は葬儀の明細を見て愕然(がくぜん)とした。
《最上等(星)》。そう記された火葬料は7万5千円。《火葬
燃料費》で1万2200円も計上され、合わせると9万円近くになる。さらに火葬場の《休憩室使用料》が3万1千円とあった。
東京23区の火葬場は9カ所で、公営は2カ所にとどまる。残る7カ所が民営で6カ所を「東京博善」が運営する。四ツ木斎場も、その一つだ。火葬料は、公営の臨海斎場(大田区)が近隣住民は4万4千円、瑞江葬儀所(江戸川区)が5万9600円で、東京博善の突出が分かる。男性は「公営が割安なのは知っていたけど、すぐ予約できないし…」とため息をついた。
6月から9万円
東京博善は前身も含めると明治20年に創業。宗教家が社長を務め、運営してきた。国は昭和43年に火葬場の経営主体を原則地方自治体と通知しているが、東京博善は明治期からの実績で民営が認められてきた。
だが、60年に転機が訪れる。運営が宗教家の手を離れ、印刷などを手掛ける「広済堂」の創業者に移った。さらに、創業者親族が令和元年に中国人実業家で、「ラオックス」を家電量販店から免税店に業態転換したことで知られる羅怡文氏に広済堂株を売却するなど「中国資本」が流入。2年3月に東京博善は広済堂の完全子会社となり、今年6月には広済堂ホールディングス(HD)代表取締役会長に、その羅氏が就いた。
こうした「中国資本」流入の過程と重なるように、東京博善は火葬料の値上げを続けてきた。
3年には最も安い大人の料金が5万9千円から7万5千円に引き上げられた。4年6月には燃料費の変動に合わせ、追加料金を上乗せする「燃料費特別付加火葬料」を導入。今年6月、この制度は廃止されたが、現在は9万円にまで上がった。
値上げについて、広済堂HDの担当者は、燃料費や人件費の高騰などをあげ「多死社会を支えるための設備維持費なども含め、将来にわたり安定的に火葬事業を継続させるためだ」と説明する。
全国では公営、無料
全国の火葬場(令和5年度)は1364カ所あり、うち97%は自治体などが運営する。火葬料は無料か1万~2万円程度が一般的で、同じ都内でも立川市などの多摩地区の多くは住民であれば無料だ。
東京博善の火葬料について、23区を中心に約160店舗が加盟する都葬祭業協同組合の浜名雅一理事長は「民間企業が利益を追求するのは仕方ないが公益事業の精神からかけ離れている」と訴える。
身よりのない生活保護受給者といった火葬料をそろえられないケースでは、国と自治体が費用負担する葬祭扶助制度があるが、それ以外は、生活が困窮していても、遺族らは分割してでも支払わなければならない。
組合によると、葬儀を行わず火葬だけにしたり葬儀を簡素化したりするケースもある。そもそも火葬に立ち会う機会は人生で多くはなく、費用に地域差があることすら知らない人は少なくない。その結果、「高い」と感じても言い値で払わざるを得ないのが現状だ。
昨年8月以降、組合は火葬料の適正化を求め行政が管理できる法整備や新たな公営火葬場設置の陳情を監督指導する立場の区などに行ってきた。
一方、新宿など6区は昨年、火葬料金算出方法などについて、東京博善に合同で立ち入り調査を実施。ただ、火葬料設定に関しては国の明確な基準はなく、次の「一手」は打ち出せていない。そして「問題」は、さらに深刻化してきているという。(大渡美咲)=(下)に続く
違法とは言わないまでも法や制度の隙間を縫う形で、日本の財産や文化が「侵食」されるような事態が露見している。その「現場」を取材する。