俳優の木村拓哉が主演を務め、多くの作品ファンを生み出したTBS系日曜劇場『グランメゾン東京』(2019年)が、12月29日午後9時に完全新作のスペシャルドラマとして帰ってくる。放送を前に、木村が囲み取材に応じ、作品にかける思いや料理との向き合い方への変化を語った。
『グランメゾン東京』は、木村演じる型破りなフランス料理のシェフ・尾花夏樹(おばな・なつき)と鈴木京香演じる女性シェフ・早見倫子(はやみ・りんこ)が周囲と衝突しながらも日本で三つ星レストラン「グランメゾン東京」を作り上げようと奮闘する姿を描いた。今回のスペシャルドラマは「グランメゾン東京」の三つ星獲得後のストーリー。アジア人女性初の三つ星レストランのシェフとなった倫子だったが、その直後、世界各国で新型コロナウイルスが蔓延し飲食業界は大きな打撃を受ける。 ――放送が決まった時のお気持ちやファンの方の反響を受けてのお気持ちを聞かせてください。
「やっぱりうれしかったです。パンデミックさえなければ、もっと早いタイミングで集まることもできたのかなとは思っていました。とはいえ、パンデミックが起こった時間は実在していましたし、『やりたかったけどやれる状況じゃなかった』というのが正直なところです」 ――物語も、まさにコロナ禍で受けた飲食業界への影響がリアルに描かれています。
「このタイミングでもう1度話を立ち上げていいのであれば、フィクションではあるけれども、実在した時間をなかったことにしてはいけないんじゃないかなと思いました。お店を閉じざるを得なかった方もたくさんいらっしゃって、その選択を強いられてしまった方たちに対してもその事実をすっ飛ばして描くのは嫌だなと思いましたし、プロデューサーの伊與田(英徳)さんとも話した上での脚本になっています」 ――「すっ飛ばしたくない」と思った理由としては、木村さんから見ても“パンデミック”というものが飲食業界に大きく影響しているという印象が強かったからなのでしょうか。
「“サービス業”の流れとしては『お料理を作ってお客さまに食べていただく』ということで完結するけれど、実際は『喜んでもらって、すてきな時間を過ごしていただくためにお料理を作る』ということ。それはお店とお客さまという関係性において究極のコミュニケーションだと思っています。そのコミュニケーションを取りたくても取れなかった時間こそが飲食業界で起きたことだったので、そこを避けて通ってはいけないんです。尾花たちが再び皆さんの前に現れるにしても、その間が描かれないまま『お久しぶりです』となるのは違うのかなと思いました」 ――尾花夏樹は、木村さんにとってどのような役ですか。
「彼を演じさせていただくことで、いろんな瞬間に立ち会えて、いろんな思いにもさせてもらえました。『ミシュランガイド東京2025 発表セレモニー』で三つ星を獲得した方たちの屋号を、自分が発表させてもらったのもその1つです。お料理や食事に対して興味や熱がそこまで高くない方からすると究極の“ひとごと”なのかもしれないけれど、星の価値や選ばれることの名誉や責任・プレッシャーを持たれていた方たちがいます。
すごく一部分の世界なのかもしれないけれど、尾花役をやらせてもらうことによって味わうこともできたし、撮る人・撮られる人が1つのチームになって特別な価値観と世界観で作品を煮詰めていくことはすごく楽しかったです。 正直、役をやらせていただく前まではミシュランと聞いても『タイヤですよね?』という解釈のほうが強かったし、一切興味もなかったと思います。でも、この作品を通して『ミシュラン』や『いただきます』という言葉の響きが変わりました。価値のある宝物の1つになったなと思います」 ――今回、5年ぶりに尾花を演じるにおいて、意識したことはありますか。
「尾花は相変わらずコミュニケーション能力が高くはないので、脚本を読んでいても『またそっちの道を通っていくんだ』という思いはありました。でも『そっちを通るから結果、面白いのか』という部分もありました。
実質5年弱の時間が経過していますが、尾花たちも各々の時間を生きてきた人たちだと脚本を読んでも感じました。再会ということにはなりますが、間の時間は現場で出演者とお会いした時に一切感じなかったです。その人たちがその場に、衣装を着て存在していてくれるだけで、各々全員のスイッチが同時に入ったような感じでした」 ――それは、キャスト陣が欠けることなくそろったからこそなのでしょうか。 「それはものすごく大きいと思います。さらに、窪田(正孝)さんや北村(一輝)さんなどの新たなキャラクターというか……。お料理を比喩して言わせていただくと、“新たな素材”が加わってくれることによって出し方がまた変わったと思います。すごくありがたかったです」
共演者らを「リアル料理人みたい」と思うことも
木村拓哉が実際にその場で作った料理を撮影で使うことも【写真:(C)TBS】
――実際に作品に出てくる料理の調理もされているとのことですが、料理にまつわる思い出はありますか。 「作るお料理が召し上がってもらった方の五感に届いた瞬間は、お芝居でありながらも印象に残っています。倫子さんに『食べれば?』と出したお料理も、撮る角度やシーンの見せ方のために何度も撮る度に冷えたものを食べてほしくなくて、フランスのビストロの台所をお借りして9皿くらい作りました。いくらお料理の工程が簡単だとしても、相手の身体に入っていくということを担う責任と喜びがありました。お芝居ではあるのですが、食べながら涙を流す倫子さんを目の当たりにした時が、この作品に対してのスイッチが入った瞬間でした。
あとは、ドラマの撮影という点では『用意スタート! 終わり!』の世界ではあるけれど、みんなしてカットがかかってからも『いや……どうかしら』と料理について話し合っていました。『あなたたち、別に料理人じゃないよね』という場が結構あって、俳優なのにリアル料理人みたいで変な現場でした。フランスでお料理をいただいた時も、京香さんから『うちの店で出すカトラリーとしてはどう思われます、木村さん?』と言われて「そこは“木村さん”なんだ(笑)」と思いながら。料理人としての感覚や意識が共存していた現場だったという印象でした」 ――尾花という役を作るにあたって、実際にミシュランを獲得したシェフの監修はどのような影響がありましたか。
「岸田(周作)シェフに関しては『グランメゾン東京』を作らせていただくにおいて、ものすごく大きな太い柱になってもらったと思っています。ミシュラン2025の場では『カンテサンス』のシェフの岸田さんではあるのですが、そこも変に共存していて『グランメゾン東京のスタッフが三つ星を取った』にもなりました」 ――今回、尾花が金髪なのが連ドラからの変化として印象的です。髪色を変えたのは、監修されている小林圭シェフが金髪だったからなのでしょうか。
「それは正直、小林シェフのままというわけではなくて……。小林圭という方がパリにいるというのは耳にしていて、映画『グランメゾン パリ』の劇場版を監修してくださると聞いてからも画像検索はしていなかったんです。『グランメゾン東京』のスペシャルドラマの脚本を読ませていただいてた時に『尾花は“あの時のまま”という人ではないだろうな』と思いました。
日本を離れていろんな国を回っている人だということを踏まえて、いつもお世話になっているヘアサロンに行ったら『思いきって全頭ブリーチやっちゃいましょう』って提案されて(笑)。そこで監督に聞いたら『見てみないと分からない』と言われたので、全頭ブリーチして、金髪で衣装合わせに挑みました。一瞬、スタッフみんなが『不評の表情をしているな』と思ったら、そのうちの一人が『これですか?』と見せてくれたのが小林シェフの写真だったんです。そこで『え、彼って金髪なの? うわ、被った』と知って、本人に会った時も照れましたね(笑)。
でも、パリにいる尾花がとった選択としては、なしではないのかなと思いました。パリに行くと『日本は流行に合わせて外見やファッションを選択するけれど、パリは“私はこれが好きだから身につける”という方ばかり』だと実感します。『その環境にいる尾花がどんな選択をしたのか』という思いもありました」 ――今回は若手の成長も描かれています。普段、木村さんが後輩の成長を実感することや影響を受けることがあれば教えてください。 「成長を感じ取れないくらいの感度の悪いアンテナだったら、自分が先輩として存在し続ける必要はないと思っています。と同時に、それくらいみんなが素晴らしい努力をして、行動に移しています。
後輩という存在が手を抜かずにやっている姿を見て自分も何かをするということはないとしても、自分に対して『ご一緒できて光栄です』という特別な感情を抱かれると、その『光栄です』をさらに超えてもらいたいなとは思います。『こいつ、つまらないな』と思われて終わらないようにしている、というところでは影響を受けているかもしれません」 スペシャルドラマ『グランメゾン東京』は、29日午後9時に放送。さらに、翌日12月30日からは映画『グランメゾン・パリ』の公開も予定されている。